KTM 390 Adventure R 剣山スーパー林道前日

昨年5月にやなせたかしさんの自叙伝を読みました。
→生誕地のやなせたかし記念館アンパンマンミュージアムが気になる
→剣山スーパー林道が近いじゃないか!

……という流れで、昨年CRFで長い間憧れていた剣山スーパー林道を走ることになりました。いろんな意味で最高でした。また走りたい!と思える素晴らしい体験でした。

390AdventureRを手に入れたのも、オフロード寄りのタイヤに履き替えたのも、すべてスーパー林道を走るための準備だったと言ってもいいくらいです。スーパー林道は未舗装路で深い山中という場所柄、すぐ通行止めになってしまいます。今回も計画日の数日前に通行止め情報が出て、一旦は予定をキャンセルしましたが、通行止め解除のタイミングで再び計画を進めました。道路事情、天候、そして気合い。いろいろ整わないと、広島からアプローチするにはちょっと遠すぎるのです。

金曜の夜、仕事を終えてそのまま香川へ向けて出発しました。現地へ向かって走れるだけ走って、くたびれたらホテルハイエースで寝る、といういつものスタイルです。

瀬戸大橋を渡った香川県から、周囲が明るくなる午前5時半にスタート。この時間に現地スタートできるというのは、遠方の土地をたっぷり楽しむ上で強烈なアドバンテージになります。

四国唯一の、ハト。

太平洋へ向かうのですが、先に瀬戸内海を拝んでおくことで「四国を縦断する」という付加価値が高まるというか、気分が盛り上がります。今は旅が終わってこのブログを書いていますが、この時点でバイクはまだとても綺麗です。帰る頃にはぐしゃぐしゃに汚れることになります。

あらかじめ気になっていた場所に立ち寄りながら進みます。

豊稔池堰堤は、大正期に建築が始まり昭和初期に完成した農業用貯水ダムです。

その異様さは、時間によって磨かれた雰囲気だけでなく、演出効果を意図的に狙ったのではないかと思える形状による部分も大きいです。

こんなの、どう見てもトゥームレイダーでゲームを進めていくと森の奥や地下で現れて、「パズルを解いて4つの水門を開閉しないと先へ進めない」タイプのやつじゃないですか。

幅145.5m、高さ30.4m。5個のアーチと6個のバットレス(控え壁)からなるマルチプルアーチ式で、排水後に水の流れが90度変わるという構造も面白いです。

いつかまた、ゲームの中で会いたいものです。

V字谷の底近くは平地が少なく、四国では山の斜面のかなり高い場所に家が点在する景色をよく見かけます。以前調べたところ、V字谷は水の流入が激しく水害が起こりやすいこと、また谷が深いと日当たりも悪いことから、山の中腹に道路を通して集落が形成されたそうです。

一体どんな生活なのだろうと思い、坂道を登ってみました。

道が広いわけでもなく、畑が広いわけでもない。人が地形に逆らわず生活している様子がよく分かります。

橋の向こうの山は傾斜が比較的緩やかなのか、家の数も多く、畑も広そうです。こういう土地の学校や通学事情はどうなっているのでしょう。

幹線道路ではなく、祖谷(いや)川を南へ遡上します。

まず驚くのは川の水の綺麗さです。浅いところは無色透明、深いところは周囲の新緑を映しているのか、緑色の濃さが際立っています。

谷から山頂まで一直線に切れ込む、ものすごく深いV字谷。そういえば祖谷といえば「かずら橋」が有名ですが、黒部と並ぶ日本有数のV字谷でもありました。

全然ノーマークでしたが、しょべん小僧のある場所だったのか!

200m下まで飛ばしたら、飛沫が霧みたいになりそうです。

こんなオーバーハングした崖の突端では、おしっこどころじゃなさそうです。

キャッシュレス決済で使いきれない少額硬貨の集積地。

宗教的な意味合いなんてまるでない像なのに、日本人って「ありがたやー」と思って小銭を置いていくんでしょうか。

あ!

床に散らばっているのは1円玉や5円玉なのに、小僧はちゃっかり100円玉を持っています。

設置環境とポーズが抜群にマッチしている、素晴らしい像だと思います。

晴れていれば、と思わなくもないですが、雲を被って烟る新緑の山も深みがあって悪くありません。そんなことを思っていたところに――

これまた思わず足を止めてしまう景色!

ひの字渓谷。川が「ひ」の字に流れています。

すごい。谷川がV字の底で90+180+90度、つまり360度ターンしています。

持ってきたコーヒーの半分をここで飲み切りました。秋はきっと綺麗だろうな。秋にもまた訪れてみたいです。

祖谷のかずら橋。昔はここしか渡河手段がなかったそうです。

重さ6トンのシラクチカズラで作られていて、3年ごとに架け替えを行っているとのこと。その準備には相当な手間もお金もかかるはずです。たった数分の体験に550円の通行料を取るのも、維持管理を考えれば納得できます。

ただ珍しい橋を渡るだけではなく、しっかりスリルも味わえます。

履き物によって難易度がかなり変わりそう。

下を流れる川が異常に綺麗で、その美しさが恐怖心をさらに引き立てています。おそらく、これまでに何台ものスマホを飲み込んできたのでしょう。

「平家の落人が追手から逃れるため、切り落とせるように作った」という説もあるそうです。もっとも、現在のかずら橋は太い鋼線で補強されているので安心です。

すぐ隣に車も渡れる橋がしっかり架かっているあたり、「播磨屋橋か!」とツッコミたくなります。

同じ“橋”なのに、播磨屋橋は日本三大がっかり名所、こちらは日本三大奇橋として語り継がれているのが面白いところです。

周囲の景観に溶け込んでいて、風情があります。

景観配慮なのか、ガードレールまでコンクリート製のかずら編み風でした。

こちらは別の橋。「龍宮橋(東祖谷の吊橋)」と地図に書かれていたので、別のかずら橋があるのかと思い込んで探したのですが、それらしいものが見当たりません。諦めて帰ろうとしたところ、上を見上げたら近代的な吊り橋が架かっていました。

対岸へ渡って、

キャッシュゲット。

国道439号へ入り、京柱峠を越えます。

京柱峠は“酷道”439号の中でも、標高1410mの見ノ越峠に次いで高い峠です。ただ、アクセスの悪さで言えばこちらの方が難易度は高い気がします。特に徳島側はひたすらこんな道。今回は雨上がりだったので、さらに面倒な路面状況になっていました。

初めて京柱峠を越えたのは14年前、GROMで439号走破ツーリングをした時でした。次が7年前、セローでの439号走破ツーリング。そして今回が390AdventureR。

彗星かというくらいの7年周期。次は2032年にお会いしましょう。

高知側の景観が良いことで知られる峠ですが、今日は少し霞んでいます。それでも徳島側よりは天候が回復気味です。

京柱峠を下った高知側、国道32号との合流地点にある踏切と橋は妙な接続をしていて、妙に記憶に残ります。

杉の大杉。杉の字、多すぎ。

一見すると普通の大木ですが、家と比較すると幹の太さが異常です。樹齢3000年とも言われています。

近づいてみると、「枝」から普通に杉の木が生えています。

ひとつの種子から、環境さえ整えば3000年という途方もない時間を生き続けられる植物って、本当にすごい。動物は儚い。

駅に立ち寄ったのですが、駅が見当たりません。行ってみよう。

くねくねした通路。

あ。あった。

外からはまったく分かりませんでしたが、この土佐北川駅は橋の上、というよりトラス橋の中に駅があります。

橋と駅を別々に作るより効率が良かったのでしょうか。他では見ない構造です。

通路は橋の下。待合所も橋の下です。

高知に来たので高知らしいものを、と思いカツオのたたき丼を頼んでみました。道の駅で食べるというのはギャンブルで、大当たりの時もあれば大外れの時もあります。

ここのカツオのたたき丼は、カツオ自体は大きくて綺麗で、見た目も上品でした。ただ、味は「高知でなくても食べられそう」という感じで、正直そこまでの当たりではありませんでした。僕が食べたいのは、生ニンニクと玉ねぎが脇役に回らず、一見すると粗雑なのに、口に入れると信じられないくらい調和して美味い、ああいうやつです。

こういう「単純さと調和の美」を好む傾向って、僕の中ではカツオのたたきだけに求めているものではないのかもしれません。

バーン、ジャンプ台(無理)。

前回は跳ね上がっていない時間帯に来てしまったので、今回は動いている姿を見られるよう時間を合わせてやって来ました。ただ橋が上がっているだけではなく、今回は降りる数分前に到着です。

手結港可動橋。どうしても「手動橋」に見えてしまって、どこかで職員さんがクランクをぐるぐる回している姿を想像してしまいます。

ん‥動いてる。文字通り音もなく、静かにゆっくり橋が降りていきます。

付け根が支点ではないので、こちら側は道路が低い位置へ潜り込む構造になっています。

これが動作機構。この距離でも騒音らしい音がほとんどしません。

うん、明らかに降りていっています。32mの橋(というか道)を、6分かけて降ろすそうです。

余裕で反対側へ回れる時間があります。

そう、実は無理にこの橋を渡らなくても港の反対側へ行く道はあるんです。それでも「海岸沿いの幹線道路としてここをスムーズに繋ぎたい」という強い意思とプライドで、この可動橋を作ったのだと思います。普通ならアーチ橋を架けるところでしょう。

もしかしたら、ちょっとした遊び心だったのかもしれません。感謝しかありません。

橋が降り切ると、聞き慣れた鐘の音が鳴って遮断機が上がる仕組み。不思議です。

見えないところでガコンガコンと音がしています。橋をロックしているのでしょうか。数十秒後、遮断機が上がりました。

やっと、横に長い太平洋の水平線を拝むことができました。瀬戸内海から四国縦断です。

波の圧が、瀬戸内海とはまるで違います。さすがアメリカまで繋がっている海。水量がたっぷりです。

ここまで走り通しだったので、ヘルメットを脱いで黄昏れてみました。

波音っていいですね。「電源不要でいつまでも鳴り続ける」なんて考えてしまう自分の無粋さに気づかされます。

早朝スタートだったので、ここまでイベントたっぷりでも、まだ室戸岬まで行って戻ってくる時間は十分ありました。でも、曇天で爽やかな海景色は望めそうになかったので、再び山へ入ってみます。

明治期に敷設が始まった旧魚梁瀬森林鉄道の明神口橋。豊富な森林資源を港まで運んでいた鉄道橋の名残で、現在は町道として軽自動車までなら渡れるそうです。

薄暗い先にはトンネル。

足元がスースーで、バイクだと自分の足で渡るかずら橋より何倍か怖いです。軽自動車が渡れるからといって、車内に守られている車と違い、バイクは自分がどんな場所にいるかをダイレクトに感じますからね。

ブロックタイヤがハマらないかより、サイドスタンドが立つかの方が心配でした。

トンネル上部には五角形の要石。右側に刻まれたIIIは、海から数えて3番目のトンネルという意味だそうです。

列車は森林資源を運ぶだけでなく、地域の人々の足でもあったそうです。このまま河口まで軌道敷跡を辿ってみると、鉄道に寄り添っていた人々の生活が十分感じられました。

河口まで来て芝生広場でQK。コーヒーを飲み干します。

防災無線が何か言っているのですが、何を言っているのか全然聞き取れません。目の前に太平洋が広がるこの場所では、生死を分けるインフラのはずなのに。

こういう、波濤が崩れて「ザッパーン!」となる波って、地元では見ないので見入ってしまいます。これだけでも太平洋側へ来る価値があります。

ザッパーン!

「魚釣り」という、時間を溶かすようなのどかな趣味が、ここではなぜか命懸けに見えます。

手羽先屋があるというので、宿へ向かう途中で立ち寄ってみました。

手羽彦さん。しっかり味の効いた手羽先を、1本100円少々で売っています。

塩コショウ、名古屋風、塩七味の3種類を注文。待つこと10分。

「塩七味は最後にしてくださいねー。口の中が塩七味になって、そのあと全部同じ味になりますからねー」

……どんだけ強いんだろう。

宿に到着。

古民家を改装したゲストハウス「kuzume Base.」さんです。敷地内の建物をそれぞれ改装して、コワーキングスペースやゲストハウスとして活用しています。

一泊3,500円。今どきの宿泊手続きアプリを使えば3,180円。鍵はなく、メールで送られてきた番号式の電子ロックを解除して、勝手に入室して勝手に泊まるスタイルです。なので、管理者の方と会うこともありません。

宿泊棟「TOMARUKU」の入口。電子ロックが物理キーではなくカードタッチ式の表示になっていて、3分ほど戸惑いました。触るとボタンが浮かび上がるタイプだったんですね。

チェックインといっても、自分の寝るベッドにサインしてチェックアウト日を書くくらい。

共有スペースに隣接したベッドは5床。プライバシーを保てるのは、カーテンで仕切られた空間だけです。

スーパー、薬局、ガソリンスタンド、しまむら、飲食店などが徒歩圏内にある、少し古びた静かな住宅地の中で、立地はかなり良いです。

炊事場には冷蔵庫から電子レンジ、調理道具まで一通り揃っています。吹きさらしに近いので冬は猛烈に寒そうですが、それがまた昔ながらの調理場っぽくて良い。

風呂もトイレも離れの別棟。風呂はシャワーのみです。

この風呂がまた良くて、「朽ちないように手を加える」のではなく、「朽ちることも在り方のひとつとして受け入れながら使う」という思想が滲んでいます。

先ほどの台所もそうですが、元からあるものをできるだけ活かし、「やり過ぎない」。古さと新しさの間のグレーゾーンから飛び出さないための工夫というか、我慢というか、そういう感覚が見えてきます。

ただ、トイレは綺麗でした。でも窓はすりガラスじゃなくて、ポリカーボネートの波板。

ではいただきます。

スーパーでカツオのたたきも買ってきちゃいましたからね。

ここでオーナーさんがやってきて、「コワーキングスペースも自由に使ってくださいねー」と一言。宿泊者は自由に使えるそうです。

うわー、なんだこりゃ。

自由にというのは本当に自由で、一晩中電気は点きっぱなし、音楽は流れっぱなし。

椅子とテーブルがあちこちに置かれていて、5人程度の宿泊者には広すぎるくらい。自分のためのスペースを好きなように作れます。

宿泊棟の共有スペースは、どうしても他人とパーソナルエリアが重なる広さでしたが、こちらならまったく問題ありません。本も豊富です。

一応コワーキングスペースなので、本来は時間貸しで仕事をするための場所。そのため、リビング風というよりはデスクやチェアも仕事寄りです。

調度品が、ミシン。

いろんな古民家を解体した時に出てきた机や椅子、調度品を集めたそうで、ほとんど廃棄されるはずだったものをタダ同然で手に入れたとのこと。

そのため統一感はないのですが、逆にすべてがバラバラだからこそ、全体として調和している感じがあります。

全ての椅子に座ってみました。この革張りの椅子が一番しっくりきたなあ。見た目より深く座れます。

テーブルの脚、古い足踏みミシン台ですよ。

この細いテーパー形状の無垢スツールも良かった。不安定そうに見えるのに、実際は重くてしっかり安定しています。

どこかで見たことがあるようなノスタルジックなスタンドライト。昔の家電って、扇風機もライトも、ボタンの色で強弱を表していましたよね。

切り株も、床にベタ置きするのではなく少し浮かせるだけで、ちゃんとテーブルっぽくなるんですね。壁から伸びている裸電球も最高に素敵です。

夜が降りてきました。

洗面台も屋外。季節を変えてまた来たくなります。夏は蚊との戦いでしょうけど。

いやもう、本当にくつろげる。これはすごい穴場です。

宿泊棟はもとは倉庫。

奥に二段ベッドが2列、右のカーテンにちょっと広めの寝室空間がひとつ。

3千円台の宿なら、この設備と広さでも十分納得できます。でもここは、それだけじゃない。好きな食材を買ってきて自由に調理して、広く落ち着ける別空間でのんびり過ごせます。

様子も分かったので、次は「ゆっくりすること」そのものを目的のひとつにして、また泊まりに来たいと思います。

翌日のスーパー林道へ、つづく。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です