毛利武彦先生

10年ぶりに仲の良かった大学時代の同級生から実家に連絡があったと思ったら、自分たちの在学中に主任教授で退官された毛利武彦先生の訃報の連絡でした。
毛利先生はスラリと背が高く、眼鏡の奥の眼はいつも温かいまなざしで、派手さはありませんがいつも物事の本質をズバリとつぶやくような先生でした。皆を愛して、皆に愛される、大変人望の厚い方でした。山本丘人に師事され、創画会の重鎮で、母校の名誉教授という立場でしたが、そんな肩書きなどは抜きにしてもカッコイイおじいちゃんでした。
今にして思えば、学生時代の大事な時期に、先生から頂いた言葉から僕もずいぶんと影響を受けているように思います。

たとえば、先生はよく学生に「手を動かしなさいよ(写生をしなさいよ)」と言われていました。後に先生が「ボクが学生時代に描いたスケッチブックを積んでいったら(平積みしていったら)、僕の身長よりも高くなったなぁ‥」と言われている話を聞いて、人に何かを言うにも仕事量の少ない人が身の丈を超えたコトを言うのはカッコ悪いし、文字通り身の丈を超えた修練を積んだ人こそ、初めて人に意味のある何かを物申すことができるのだろうなぁ‥と思いました。

また、僕らが学生の頃は、画材屋で既製品のパネルを購入すると値が張るので、多くの学生は近所の材木屋でベニヤ板や垂木を調達してきてパネルを自作していました。僕が適当な縦横比で裁断したパネルを使って描いた作品を講評していただいたとき、毛利先生は開口一番、「この画面の縦横比は不安を感じるね‥」と言われました。50号、100号といった規格サイズの画面は不思議なことに縦横比が数字に応じた等倍ではありませんが、先人たちがその画面の大きさや比率に美しさや安定感を求めて定まった比率なのでしょう。後日、美術の仕事をするようになってしばらくしてから、自分の作品を見直したとき、自分も画面の縦横比に気持ち悪さを覚えました。ベーシックなものの良さ、規格に込められた意味を理解せずに仕事をしても、第一印象で「不安を感じる」わけで、物事の常識や基礎基本を押さえた上に自分の仕事を載せていくことが大切だということもそのときに諭されたように思います。

芝道成寺で17日お通夜、18日告別式だそうです。お世話になった先生方も、大学時代の同級生も、多くの人が集まることでしょう。僕は広島から先生のご冥福を心よりお祈りしたいと思います。本当にお世話になりました。また、ありがとうございました。

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