
5月末にもなると、気温は30度に届かなくても日差しが強烈です。
妻と麦茶とで秋吉台へ行ってみることにしました。日中の外歩きは厳しいだろうと朝の5時半に家を出て、途中麦茶の休憩がてらにSAへ寄りながらの移動だったので、美東展望台到着は2時間ほどかかりました。
ここ最近の秋吉台行脚でみつけた、当たり前に家族と巡るのとは違った秋吉台を楽しんでみるつもり。

この時間、ここから草原を臨むと太陽を背にした全光になってしまうんだな。一面緑の世界でせっかくの朝の光なのに丘の起伏の見え方が弱くなってしまう。

2月に野焼き直後の秋吉台へ訪れてから、秋吉台へは今年5回目の訪問になります。
GWを過ぎると伸びてきた緑が野焼きの跡の黒さを隠し尽くして、緑の濃淡だけでできる緩やかで大きな曲面の原が現れます。
このくらいの季節だとライディングウェアで歩き回ると暑いし、真夏は真夏で暑いし、冬は景観が今ひとつだし、でバイクで来ると結局歩かずにバイクで入れるところまでで訪問が終わってしまいます。
今日は麦茶もいるので美東展望所から長者ヶ峰展望台まで片道1.3kmほどを歩いてみることにしました。

何も意識せずにこの景色を見るとどこまでも広がる凸面の草原に目を奪われますが、一度気になり始めると目を逸らすことができない凹面のドリーネやウバーレ。

僕があちらこちらと訪れて家族とまた訪れてみたいなと思うところはたくさんありますが、それ以上に一度訪れたところを家族と再訪するのではなく、まだ歩いたことのない場所・初めて見る景色を家族と楽しむことにずっと憧れていました。
ただただ景色を見て歩くこと以上にこれは楽しい。

長者ヶ峰展望台はなだらかな山の頂上にあります。
足場で組んだ簡単な展望台が作ってあるのですが、これが小さくて急場凌ぎな感じでもとても意味のある展望台で、少し高さを増すだけでまさに360度の眺望を楽しむことができます。
朝の早い時間にこんなところまで歩いてきている人は、よほど何かの狙いを持ってきているのでしょう。展望台の先客のおじさんは、秋吉台へは植物と鳥を楽しみに足を運んでいるとのことでした。自分は風景はもちろん、地形や地質を楽しみに訪れています。
いろんな人の、それぞれの楽しみ方がありますね。

360度の眺望、ということで周囲に対してこの長者ヶ峰展望台の山は周囲より少し高い山なんだな。

真正面が長者が森とその駐車場、右側の草原の山が北山。この山あたりまでは主に「草原」だけれど、その奥の地獄台方面の山々にはピナクル(石灰岩の溶け残った突起状の岩)が多く白い山にみえます。

正面の山がこの界隈では一番高い桂木山(かつらぎさん 702m)であると野鳥観察おじさんが教えてくれました。こちらの至る所からからあちらが見えるということは、あちらかは秋吉台が一望できるんだろうな。

ちょっとピナクルがゴロゴロしているけれど、WindowsXP的な世界を歩く。

高いところを堪能したので、次は低いところを。
先日たまたま見つけたこのダートの先に広がるパラダイスへ。

轍があるのはこの先が耕作されているから。おかげで「走れる道」として見つけることができました。

文字を念力で「偉そうな名前だね」と取り上げているところ。

ひと月ほど前にも訪れて観察したドリーネを利用した畑。

ここは秋吉台の谷にあたるところで、ドリーネやウバーレが幾つも段をつくってだんだん標高を下げていきます。
初ドリーネ・初ウバーレの方に説明すると、ドリーネは酸性の雨水が溜まって石灰岩質の地面を溶かして形成された丸い穴状の窪み。ウバーレはそれがいくつかつながって不定形になったもの。水は石灰質の地下に浸透して鍾乳洞を作ったり地下湖に貯まります。

これも前回観察したドリーネの畑だけれど、5月の植物の成長ってすごいな。全然印象が違ってしまっています。

何も考えなければただの農道。地形や地質を考えれば石灰岩の谷と、やはり右手の窪みにドリーネ。水は低きへ流れるので、この谷の先、一番低いところに水の集まる「帰り水」と呼ばれるところがあります。

綺麗な紫色のウツボグサの道。

さて、低い方へ歩いていくと帰り水。

途中にもドリーネ。

というか、少しずつ低くなりながらドリーネの平面の段が続きます。
場所によっては盛土をしてドリーネの中央が道になっていました。

最後、急激に窪みが深くなっています。

谷の底に森が見えます。
妻が「水音がしない?」
丘の上を車やバイクが走ると聞こえないくらいのかすかな音だけれど、谷の方から確かにピチャピチャと水音がしている。川が流れ込んでいる様子もなく、ただの窪地なのに。

ここより低いところはないようで、ぐるりと丘に囲まれた地形です。
急傾斜を降りてみよう。

つい先ほどまで日差しを遮るものがない草原を歩いていたのに、森に入ると世界が変わりました。木漏れ日と、水音。
水の発生源はこの岩の隙間でした。この穴からバチャバチャと水が音を立てながら流れ出しています。

小川は10mほど流れて、この石の隙間に消えていました。

「この窪地の底には1年中涸れることのない湧き水があり、湧き出た水が地上を十数メートル流れたあと、再び地中に吸い込まれる様子からこの名がつきました」
さっき文字を念力で取り上げていた帰り水の看板に書いてあった説明文。まさにこの通り。
ここより低いところはないということは、雨の日にはこの谷へドバドバ水が流れ込んでくるということになる。ここは池になっている様子もないので、水は地下へガンガン吸い込まれているのでしょう。
こんな面白いスポットをどうして何十年も知らなかったのだろう。歩いてみるのって大事だな。



この浮世離れした景色の中を、妻と犬と歩くの、最高に幸せ。手軽に来られればいいんだけどな。片道2時間なんだよな。
麦茶、歩き疲れてしまったので抱いて丘を登りました。

石灰岩はサンゴや貝殻などの海洋生物の遺骸(炭酸カルシウム)が海底に堆積して、長い年月をかけて固まった岩石だ。ということでもともとは海であった場所で作られます。また、サンゴ、ということからわかる通り、石灰岩の大元は温かい海で生成が始まります。
秋吉台も四国カルストも平尾台も、もとは南の珊瑚礁由来で海洋プレートの表面に載って運ばれてきたものが大陸側のプレートの下に潜り込む時に掻き取られたものだそうです。この掻き取られた層を付加体と呼びます。
先に挙げた3大カルストは、いずれも「草原に白い石灰岩」といった多くの人が観光で楽しむカルスト地形の路頭だけでなく、すぐ近くには石灰岩を露天掘りしている大きな採掘場があります。
僕の知っている範囲では広島県の帝釈峡や大分県の津久見あたりも木を刈り取っていないから絵に描いたようなカルスト地形には見えないけれど、周辺の山の森の中には石灰岩がゴロゴロしています。こういった場所の石灰岩の塊は想像以上に広範にわたって地表近く覆っているということになります。



それにしても、地表に露われているピナクルは工作機械で削ったとしか思えない形状をしているのだけれど、雨水の侵食だけでどうやったらこんな統一感もなく削られ過ぎたような形状になるんだろう。

ああ、幸せ感じちゃうな。秋吉台まで来てしまえば割とアクセスしやすいエリアにこの景色を楽しめる周遊路を見つけたので、ぜひまた麦茶を連れて訪れてみよう。

阿蘇ほど頭の中の仮想空間からはみ出すほどのスケールではないけれど、阿蘇にはない魅力が秋吉台にはあります。
阿蘇の凄さはその収集がつかないくらいのスケールの大空間をバイクで舐めるように走ることができるということ。秋吉台は歩いてみると、徒歩というスピード感でなら把握しきれない十分なスケールの広がりを感じるし、歩く速度で丁寧に拾う意味のある景色が広がっています。

実は今回、この日にあやのすけさんがご夫婦で秋吉台に行くという話をうかがって、そうか夫婦円満の秘訣は一緒に秋吉台を歩くことにあるのか、とあやのす家を見倣って妻と(犬と)やってきました。
自分たちが先行して来てしまったので、そろそろあやのす家が秋吉台到着したかな、と調べてみると、なんと谷を挟んで向かい側のカルストロードにいらっしゃる。それも車を停めている。こちらの場所を知ってのことかと思ったら、事前に相談も何もしていないので、たまたまたこの位置関係になったらしい。

ピクセルの粒に成り果てているあやのすけ氏。手を振ってみたけれどまさか対岸に知り合いがいるとは思わないだろうから、無反応だった。うん、無視されたわけではないだろう。

通りすがりの秋吉台青少年自然の家。ドリーネは平坦なので、それが利用しやすくて耕作地としているのだろう、というのはこれまでみてきた畑に対する僕の予想なのだけれど、ここではその形状をファイヤーサークルを囲むサークルとして利用されていました。
今調べたところ、令和8年5月1日の記事で「令和8年3月31日をもって、山口県秋吉台青少年自然の家は廃止となりました。開所以来52年間、長らくのご利用をいただきありがとうございました」とありました。

特殊な景観の素晴らしい散策路に囲まれたとても良い施設なのに、子供が減ったことに加えてこういった自然体験の需要のなさから維持管理の意味が薄れてしまったということでしょうか。
今時屋外の集会広場とかは流行らないかもしれないけれど、炊事場とかきちんと整備されている施設なので何かに活かせればよいのにな、と思います。

近場ということで別府弁天池に来てみました。

10年単位ぶりにやってきたと思います。昔の記憶では池全体が透明感のある青緑をしていたように思う。少し青みが薄くなったでしょうか。
池の端の方からポコポコと泡が出ていたので、湧水量はそれほどでもないのかと思ったら、毎秒186Lもの水が湧いているそうです。

水底の赤色とエメラルドグリーンが対比が綺麗。
赤いのは鉄系の鉱物のせいだと考えてしまいがちだけれど、これはベニマダラという藻。淡水性のものは珍しいとのこと。

このあたりで湧水といったら、別府弁天池しか知りませんでした。
先日この白水の池をみつけました。こちらも周囲の山から石灰岩質の水脈を通して水が湧いています。石灰が混ざっているので湖水が青白い色をしているそうです。
「綺麗じゃないのに綺麗」というのが妻の評で、実際綺麗じゃないのに、妙に綺麗な景色なのです。

湖の真ん中の御社のある小島へ渡るのには鉄の電柱の橋を歩かなくてはならず、ちょっと勇気が要ります。麦茶は抱いて渡ったからね。

秋吉台と、谷を挟んで一つ隣の山はこの有様。地中深くに埋まった鉱物を掘り出すのとは違って、ここは上から掘っていけば即石灰岩です。
ここは秋芳鉱業さんの採掘場なのだけれど、道の途中に見えたベルトコンベアの高架は山を抜け野を抜け、長門市仙崎の海岸まで16.5km続く日本初の長距離ベルトコンベアだそうです。そういえば仙崎では同じような薄いエメラルドグリーンの高架が目立っていて目にとまります。
あちらこちらを巡りながら、頭の片隅に気になることを溜め込んでいくと、例えば瀬戸内海の海運で栄えた港町のつながりに気づくように、ある日突然「あの時」の景色と「この時」の景色が繋がることが最近よくあります。この瞬間って、結構なアハ体験です。

江原(よわら)ウバーレ集落という、ウバーレの中に人が住む一帯があるというので足を運んでみました。どんな景色なんだろうか。

うん、言われないと分からない。いやいや、言われても全然ウバーレだと分からない。
地図をみると、川が1本も流れていないのに江戸時代の初め頃から耕作をしたり人が住んでいたりしている特殊な地形のようです。周囲を山で囲まれてすり鉢状になっている地形は、先の帰り水のように谷底に水が貯まるのではなく、底には名前をみただけで好奇心が吸い込まれてしまいそうな「吸い込み穴」という地下へ水が流れ込む穴があるとのこと。
ついついバイクの感覚で谷底への集落へ向かってみたけれど、あまりの道の狭さと勾配の深さとクネクネと曲がる障害物の多い街並みにに、車で踏み込んだのを軽く後悔しました。

弁当を置いているような店があるような土地ではないのに、白水の池の近くには弁当も作っている仕出し屋さんがあります。シンプルで美味しい。このボリュームで600円。
道の駅の屋外テーブルで開いて食べました。木陰は気持ちよく、お店に入るよりは何倍も美味しい体験ができました。

道の駅おふくには温泉もあって、足湯もあります。妻が土産物を見ている間、のんびりと足湯。普段自分のペースではこんなにのんびりしない。妻と麦茶のおかげ。
子ども抜きで妻と二人(と犬と)で遠出するのっていつ以来だろう。そう遠くない老後の生活のシミュレーションとしては、とても出来過ぎな1日を過ごすことができました。
バイクだと次から次へとイベントを詰め込んで、どれだけお休みの時間を有効に使い切るかというのがなんとなくテーマになってしまっていたけれど、何が何でもバイクじゃなくて、車で出かけてゆるゆると時間を溶かしていくのも楽しめるくらいには落ち着いてきたようです。



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