ブックマン

昼ごはんを食べるつもりで焼肉すぅちゃんへ向かった。

のだけれど、その途中にあるお店を通り過ぎたあとUターンして寄ってみることにした。「本と珈琲 ブックマン」さん。

以前から気になっていたお店で、コーヒーとサンドイッチをつまみながら本が読める店、というのをどこかで得た情報として知っていた。ここに住んでいる本好きな老夫婦が、蔵書を並べて経営しているのだ。と勝手に思い込んでいた。

外から見る佇まいは店というより、まんま自宅、という感じ。

想像と違った。軽くリノベされてこざっぱりした店内。

若い男子がひとりで切り盛りしている店だった。

受付カウンターの脇に描きかけの絵と道具が置いてあったので「お客さん居ないときは絵を描いてるんですか?」と尋ねてみたら「そうです」と。こういうのをいい商売というんだろう。

自分の描いた絵を売っている。現在店主が読んでいると思われる本、自由に飲める水。

この椅子の並びを見て頂戴。

誰かと行って談笑する、という店ではない。壁に向かって個々が黙々と読書をする時間を提供するための空間だ。

喫茶店、ではない。

おひとり様大歓迎で、本に没頭できる空間を保証してくれる喫本店といった店だ。

この棚にはエッセイ、小説など割と読みやすいサイズの本が並んでいる。一番上段は坂口恭平さんの棚。画集を手に取ってみた。

衝撃を受けた。無茶苦茶良い。

日常を膨大な量のパステル画で記している。日に4枚とか描くので1年で画集が出せるそうだ。その量とスピードから嘘とか気取りとかを混ぜようのない、純粋に作者の目に飛び込んできた景色が、解像度は高くないけれどその分、部分ではなく画面全体に目をむけさせられてしまう絵に収められている。

そもそも、坂口さんは、もともと画家でもない。

思わず出版社をメモしてこの画集を買おうかと思ったけれど、こういうのは買ったら買った時点で満足してしまう。棚の飾りになって開かなくなる、という経験を何度もした。

見たくなったらブックマンへ来れば良いのだ。

コーヒーの味、酸味がなくて好き。というか、うちと同じ豆なんじゃないかというくらい違和感がない。

元が和の家なので縁側がある。窓の外、少し低いところが国道で、週末なこともあって定期的にバイクが通る音が聞こえてくる。本の世界に没頭していても、ちょっとだけ現実とつながりがもてる。

その縁側のドンつきはトイレ。磯野家タイプ。

坂口さんの10年ちょい前のプロジェクトの本を1冊、ここで読んでしまった。

当たり前を当たり前と捉えない視点から浮かぶ疑問を、行動で解決する強さがあった。

 「僕は貨幣のことを「考えない技術」と呼んでいる。(坂口恭平)」

自分らしく生きるということは、他人の規格や基準に惑わされず生きるということでもある。自分の肌で感じ取った自分の生きている時間を、自分の判断で生きていくということだ。

この一見控えめに見える店からも、色濃くそれを感じた。答えの出し方は人それぞれだけれど、自分にとっての正答を自分でつくりあげた文法で紡ぎ出せるか、が人が生きる意味だ。

暇だな、と思ったらフラっと行く店にしたい。

問題は、すぅちゃんと離れていればその日の気分で昨日はあっち、今日はこっち、とできるけれど、それこそバイクで数分という距離なのでどっちへ行ったものか、とても悩ましい。

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